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フィリピン・ミンダナオ島で元日本兵が保護?

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雨季に入り例年以上に蒸し暑い日々が続くマニラである。めずらしく忙しい日々が続きTVやネットに目を通していなかったが、前日(5月25日)に東京から帰還した知人宅のTVに流れたNHKの夜7時のニュースに、いきなりフィリピン・ジェネラルサントス市で旧日本兵が発見されたとの画面が飛び込んできた。

ニュースのヘッドラインでは「郵政民営化法案が民社党欠席のまま国会審議入り」「石原都政で副知事三名の辞表提出」「外務省政務次官の失言問題」などかなりホットなニュースが続いていたが、最初に元日本兵のニュースが現地の様子などを含めてエキサイトに伝えられていた。日本大使館の小川参事官の記者会見の様子、翌日には更生労働省の担当官が現地入りするとの情報、そして帰国を希望している元日本兵は第二次大戦中、陸軍第30師団に所属していた大阪出身の山川吉雄さん(87歳)と高知県出身の中内続喜さん(85歳)のようだと報道されていた。

知人と私は、このお二人が小野田さんや横井さんの時の様には日本兵のまま潜伏していたのか、それとも現地人と同化して生活を続けてきたが高齢化してきて望郷の念が募り、帰国を決心したのではないかなどと、画面を眺めながら互いの自論を交わした。何れにせよ明日には会見の様子などで分かるだろうが、興味を掻き立てられるニュースであった。

私共はフィリピンに15年近く在住しているが、ミンダナオ島の奥地の状況は分からない。しかし、大変貧しい地方でも熱帯雨林の自然の恵みもあって滅多に餓死のニュースには触れない。反政府組織がジャングルを拠点に今尚活動しているのも其れを裏付ける。会見場のジェネラルサントス市はミンダナオ島最大の都市ダバオより南南西に下ったミンダナオ島最南端の港湾都市である。1990年代を通して、米国と日本からの開発援助によって人口50万の水産業都市として発展してきたと聞いている。
私も2年前にカツオ節に関して調べていたときに、既に日系企業が同市に生産工場を設け荒節に加工したものを日本に輸出していると聞いて、そこで働いている日本人の方とネットを通して情報を交換したことがある。また、マグロの缶詰工場や欧米への海産物の輸出拠点となっているなど、ジェネラルサントス市に対する私のイメージはミンダナオの中では先進都市であって、元日本兵のニュースはフラッシュバックを見る思いてあった。

続く27日、28日は日本からビジネスを目的に来られた方と在留邦人の間で起きたトラブル解決の相談にのっていたためにタイムリーにニュースを追えなかった。我々のような在留邦人が日本の出来事を即時的に追うことはなかなか困難である。NHKの海外放送でのニュース番組、空輸便による大手邦字新聞、インターネットからの情報取得、更に現地の邦字新聞などが身近な情報源となるが、どうしてもライブには程遠い。タイミングを計りながらTVをつけたり、出かけた先で邦字新聞だけでなく地元紙にも事件の展開の行方を求めたが、地元紙や地元TV局でこのニュースを大きく扱っているところは無く、結局27日、28日共にNHKのTVニュースとインターネットからの情報だけで、現地の情報を適時知る事はなかった。
「元日本兵との接触に困難を極めている」「仲介者の報道陣の前には現れず」そして昨日の深夜、、本稿を書き始める段になって、仲介者の情報が信憑性に欠けるとして日本大使館員はマニラに戻る事になったとの報をネット上の毎日新聞のサイトで知る事となった。

何とも釈然としない気持ちで、この出来事の背景に何があるのか勝手な想像を巡らし、投稿文を書き改めることにした。

フィリピンで戦後帰還できなかった残留孤児に関する件が世間の関心を引いた時がある。それは、90年代の入管法改正により在外日系二世にVISAの支給と永住権が付与されることなった時である。ブラジル人日系二世の多数が就業を目的に来日し、現在も外国人労働者に関わる問題になるとその存在が話題となるので周知のことと思う。
フィリピンでは戦後諸々の事情で日本に帰還せず又は帰還できず、ある人は日本名を隠し又ある人は理解ある伴侶にめぐり会い、戦後50数年を生き抜きその結果かなりの人数の日系二世が存在する。この入管法の改正を契機に日系二世であれば日本での定住も就業もできるとあって名乗り出る者が多数現れた。しかし、日系二世であることを証明するためには戸籍謄本始めとする本人証明に要する書類の整備が必要となるが、殆どの人達は戦後の混乱期に関係書類を紛失したり、意図的に日本人である事を隠すために消却したり、又は日本の本籍地での戸籍台帳に登録されていなかったりで証明することは大変困難を極めた。その様な状況のなかでフィリピンの残留日系人の有志の中から、日系人を組織化して問題の解決に当るボランタリー団体も生まれた。マニラ日系人会、バギオ日系人会、ダバオ日系人会など称する団体が今も活動している。更に在日弁護士の指導の下で資格認定を支援するフィリピン残留日本人法律支援センターなども現れる。国内では就労機会も少ないうえ、賃金も低い故に海外に職を求める者たちにとっては、日本で働ける又は定住できる事は夢のような事である。日系二世でない者までも身元を詐称して申請するなど認定作業も混乱した。なかには認定証の取得をエサにお金を騙し取るイリーガルなブローカーなども暗躍したようである。

80年代後半から90年代にまたがる日比間の人の移動では、フィリピン人芸能人(エンタテナー)の日本での就労が際立っており、メディアでもジャパユキ(日本での就労を目的とするフィリピン人芸能タレント)やジャピーノ(フィリピン芸能タレントと日本人との間に生まれた混血児)なる造語まで生まれるほどの社会現象となった。このジャピーノの中には就労年齢に達した日系2世も現れ始めている。

日本では90年代の経済不況と2000年代に入ってからもフィリピン人エンターテナーの日本での就労は増加を辿り、昨年からの「人身取引対策」に伴う入管規制がメディアで再び取り上げられるようになった。一方、現地フィリピンでは来比する日本人や在留邦人の状況に90年代前半の其れとは大きな変化が現れた始めた。
先ず、①海外投資や企業進出の停滞に伴い本国からの駐在員派遣は減少し、替わって在留邦人の現地雇用の増加。 ②日本国内での不景気と雇用環境の悪化を反映し、海外に活路も見出そうとする中高年令の人達の長期滞在者の増加 ③老後の生活をフィリピンに定めた高齢者の増加 ④フィリピン人女子との出会いから、生活の場をフィリピンに移す男性の増加 等々が上げられる。
その結果、諸々の期待を込めて来比したものの目的を達成するまえに所持金全てを使い果たし、明日の寝床すら確保できないような困窮邦人の増加や、日本人間の金銭上のトラブル又は犯罪への加担が目に付くようになってきている。

さて、本題の元日本兵の話に戻すと、旧日本軍の人事書類に載っている方と同一人物であれば87歳と85歳であり、終戦の年には27歳と25歳であった事となる。

年齢から察すると、残留孤児ではないだろうが、ダバオを中心とするミンダナオには戦前より入植移民した数多くの民間人がいたので、年齢からだけでは元日本兵とは断定できない。また、お二人が現在の土地に住みついた時期が断定されぬまで分からぬが、終戦時の残留邦人ではないかもしれない。最後のニュースで仲介者の情報が信憑性に欠けるとして大使館スタッフはマニラに引き上げるとなっているが、何とも釈然としない結末である。靖国神社問題、歴史教科書問題 等々、世界大戦の歴史の重みと認識の相違が小泉政権のアジア外交の要となっている時だけにマスコミは一斉に「元日本兵が生存」というような扱いをしたが、現地フィリピン事情を知る者にとっては単純に断定できないと思ったのではないだろうか。
# by jpaccess | 2005-05-31 16:12 | 時事ニュース

閣議決定の「人身取引対策行動計画」の第1弾がいよいよ施行。その裏での暗闘。

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昨年末に閣議決定された「人身取引対策行動計画」だが、その後、「スマトラ沖地震」や「NHKと朝日新聞のメディア論争」更には「日本放送株式をめぐるフジテレビとライブドアの対決」などによるメディアでの賑わいに圧倒され、その後の動向は衆目にとまらなかったのではないだろうか。
しかし、いよいよ、その人身取引対策の第1弾として入管法の「興業」に於ける許可基準の一部改正省令が3月15日より施行される。改正内容は、「興行」の在留資格で上陸しようとする外国人が、その従事しようとする活動について、「外国の国若しくは地方公共団体又はこれらに準ずる公私の機関が認定した資格を有すること」としている規定を削除するものだ。この一文を読むだけでは、其れが一体どう「人身取引対策」に繋がるのか、一般読者には理解出来ないと思う。
「人身取引対策行動」に関わる施策の一つに、外国人歌手やダンサー向けの「興行ビザ」の発給を受けて入国した外国人女性が、クラブやバーなどの風俗営業店でホステスとして働いたり(資格外活動)、売春を強要されたりしており、入管法の「興行」の在留資格が「人身売買の隠れみの」に悪用されているとして、外国人芸能人としての資格基準の審査を厳格化するなどを盛り込んでいた。
興行の在留資格で入国している外国人は年間約13万人で、その内の約6割の8万人近くをフィリピン人で占めている(2003年)。今日まで法務省入国管理局ではフィリピン人が興行の在留資格を取得するうえで、フィリピン政府の監督官庁が認定した資格証明(Artist Record Book)を資格審査の基準としてきた。本省令の改正の本旨は、今後はそのような外国の公私の機関が認定した資格を審査基準とせず、「我が国で行おうとする興行に係る活動について2年以上の外国における経験を有する者又は外国の教育機関において興行に係る活動について2年以上の教育を受けた者」とする一般規定を適用する、ということである。

従来、削除された規定の適用によって「興行」VISAの発給を受けてきた国は、フィリピンと韓国であったが、韓国が短期滞在の査証免除国となって以来、同規定の対象国はフィリピンだけとなった。その為に、大手メディアもあまり取り扱わなかったのかもしれない。しかし、本改正で大きな影響を受けるのは、日比の業界関係者のみならず、今日まで日本でエンタテナーとして働き、その収入で家族を支えてきたフィリピン女子や今日までの制度で「興業」の資格取得を目指してきたエンタテナー予備軍の女子達だろう。更には、フィリピン人女性と結婚している日本人家族又は招聘事業者まで、フィリピン人芸能人=入管法違反者=売春=人身売買関係者というよな偏見に晒される影響などを考えると、経済的のみならず「人権」に対してもあまりにも配慮の無い施策ではないだろうか。

「人身取引撲滅対策」の一つとして、入出国管局は本省令改正に当たりパブリックコメントを開き一般の意見を募集した。私は、反対意見を提出する一方で、JANJANの記事投稿で何度か問題提起もしてきた。
パブリックコメントの結果は、賛成65件、反対1,924件、その他139件であったが、入管側は反対意見への反論のみに終始して、本改正を実施する旨を告げていた。納得は出来ないものの、本改正の施行までには、影響も大きいフィリピンに対しては何らかの経過措置ないし代替策が提示されると思っていた。
しかし、施行間近にした2月28日の朝日新聞の社会面に掲載された「入管行政は弱腰」興行ビザ問題で東京入管局長が指摘、という記事を読んで驚いた。更に、週刊朝日3月11号で掲載の「人身売買の温床にはメスを入れる」現職局長が初めて語った入管行政の闇の部分、を下記のサイトを通して読んで、驚きというより怒りすらおぼえた。

まず、朝日新聞は何を意図して本記事を掲載したかは分からないが、坂中英徳東京入管局長がインタビューに応じて
「業界や政治家の圧力で入管行政が弱腰になった」と述べている。「政治家の圧力」に対する関心からだろうか。
何れにせよ、坂中局長は、入国した外国人女性が実際には資格外のホステスになっている実態を指摘して『興行資格での入国は事実上、外国人ホステスの調達手段で、時には劣悪な条件下の労働や売春まで強いるものになり果てている。これを政府も長年、放置してきた。結果として国際社会から「人身売買王国」と批判される事態を招き、現場責任者として責任を痛感している』と結んでいる。

更に週刊朝日では、内容が長文にわたるので、私なりに要約すると、「興行の世界」では1995年頃まで業界、政界、行政のなれ合いが続いており、興行の資格で入国してきた外国人女性が、実際はホステスとして働かされていることは、ある意味では業界の「常識」だった。同氏は、そのような、法律違反か積行する「興業の世界」にどんな逆風がふけどもメスを入れようと決心したと述べている。又、坂中氏は、本人が披瀝しているように、「興行」の実態を過去のアジアへの日本男性の売春ツアーの国内版ととらえているようだ。
法務省入国管理局、入国在留課長に就任した95年に全国の入国管理局に実態調査班を作り、本人が陣頭指揮をとって「任意」で調査にのりだした。その結果、調査対象となった444店のうちで9割以上の412店でホステス行為などの不法行為が発見された。本人指揮の調査と招聘業者への審査強化の効果によって、94年には9万人であった「興業」による入国者数が95年には5万9千人、翌96年には5万5千人までに減少した。しかし、本人が仙台入管局に配転になり、課長ポストから外れた後、業界や政治家からの圧力があったのか、東京入国管理局長に付いた2002年には12万人までに増えていた。そこで再び2004年7月に東京入国管理局に人身売買防止策の一環として、興行入国者の追跡調査チームを立ち上げ、徹底的に「出演先」を調査した結果、其処で見たものは興行入国者が露骨にホステス行為をやらされている光景であった。このような実態が「人身売買王国」という国際的批判を浴びる事態を招いたのであって、結論的には興行の許可基準を改正して、外国人芸能人の出演先から「風俗店」を除外するという思い切った措置をとるべきだと考えている、と主張している。

先ず、両紙を読んで私が、驚きというか呆れたと言うか、怒りまで感じた点を列記したいと思う。
1.坂中氏が指摘しているように、長年業界、政界、行政の癒着の下で、興行の資格で入国している外国人芸能人がホステス行為(接客行為)に従事していることは業界の常識だったのであれば、日本国内の事情に疎い外国人芸能人からすれば、其れが慣習上認められていると理解されるのは当たりまえである。坂中氏が嘆く今日の状況を作り出したのは行政側の怠慢によるものであって、同氏が政治家やヤクザ、業界の圧力があったからと言っても、それは怠慢逃れの言訳にしか聞こえない。仮に、それが「人身売買」の温床であるなら、先ず国内の制度から改善を行い、環境が整ってから外国への規制を図るのが日本国としてとるべき姿勢であるはずだ。
2.フィリピンパブや外国人ホステスが働くクラブを海外売春ツアーの国内版として見なしているようだが、入管で認定した「出演店」のなかで、売春を行っている店はどれだけあるのだろうか、明確な統計数値を提示願いたいものだ。私もフィリピンクラブが好きになって、入管で出演店に登録されたフィリピンクラブに50軒以上は行ったと思うが、幸か不幸か買春出来た経験はない。95年の任意の調査で444店のうち9割以上が接客行為などの不法行為が発見されたと書かれているが、そのうち売春等の人身売買該当行為に当たる件数はどれだけあったのかも不明瞭である。
3.任意で調査したとなっているが、入国管理局には「強制立入り捜査」の権限が与えられていないためなのか?その結果得た情報を元に芸能人招聘業者の申請を受け付けないなり出演店の認定を取り消しても、行政官としての裁量権限の内と理解すべきなのか? 更に、「短期滞在」又は他の資格で入国してきた外国人女性の多くがクラブや飲食店で働いているが、其れも入管法の資格外活動に該当するはずだ。其れを調査し「興業」と比べたことがあるのか、興行より遥かに多い人数であるはずだ。また、この短期滞在者が関わった犯罪事例の方が遥かに多いはずだが、何故公表しないのか。国別、資格別、法令違反別に情報を公表すべきであると思う。そうすれば、「興行」で合法的に入国したフィリピン人が、資格外活動を除けば、如何に売春等の刑事事件を犯し又は被害にあった事例が少ないか一般の人達にも分かるはずだ。
4.「興行」の実態によって「人身売買王国」という国際批判を浴びる事態を招いた責任を痛感すると言っているが、この国際批判に反論することは出来ないのか。昨年6月に公表されたアメリカ国務省から「人身売買監視対象国」にフィリピン共々指定を受けたことを理由に、「人身売買大国」と自国を卑下しているようだが、アメリカ国務省の報告書の原文を読んだことがあるのだろうか。在アメリカ日本大使館が翻訳したなかに、NGOグループからの事例紹介とあわせて、あるNGOが提出した文章として「例えば、日本が、2003年に5万5000件の芸能ビザをフィリピンの女性に発給したことが報告されている。これらの女性の多くが人身売買の犠牲になっていると思われる。・・・・・」が載っているが、国務省の原文では、フィリピンとの興行の取り扱いは人身売買として指摘されていない。何故なら、このNGOのレポート自体が推論だけで書かれているからである。その点を入管の局長として反論できなのか。
5.ホステス行為は社会悪なのだろうか、勿論、雇用や契約等でホステス行為を強要しているとなれば「人権」の侵害となろうが、日本人の芸能人志願者の中で高級クラブでのホステスで生活を立てている者も多いし、生活手段としてホステスを職業としている者も多い。また、大企業の幹部、政治家、著名人、多くの日本男子がナイトクラブに通い、馴染みのホステスとの談笑で日頃の憂さを晴らしたり、商談の場に使ったりしているではないか、決して売春を求めて通っているのではないと思う。米国人男性からするとクラブでホステスと談笑するのに100ドルも200ドルも支払う日本人の行動は文化の違いから理解できず、その裏には買春などの暗部が隠されていると疑ったとしても自然ではある。しかし、ジャングルジムのような舞台の上で半裸の躍り子が客の欲情を誘うような酒場、 現地の娼婦達のたむろする所謂ゴーゴー・クラブをアジアに持ち込んだのは米国である。アジアの米軍基地の周りには必ず同様なクラブが建ち並び、売買春が半ば公然と行われている。そんな米国務省が日本にある外国人女性の働いているクラブを指して人身売買の温床などと批判する筈が無い。
6.人身売買対策行動計画としては、今後刑法を含めた法改正があるようだが、国会の承認を必要としない省令改正をもって、何ら改善策または代替策を示さずフィリピン人エンターテナーを締め出すような改正は、十数年以上続いてきた商慣習を全く隠蔽し、余りにも坂中局長の意見に押された法務省の責任回避的な施策に思う。
7.人身対策行動計画の策定にさいして、2004年4月に内閣官房副長官補(内政、外政)を議長として、警察庁生活安全局長、法務省刑事局長、法務省入国管理局長、外務省国際社会協力部長、厚生労働省雇用均等・児童家庭局長を構成員とする関係省庁連絡会議が組織され、4月5日、7月6日、10月12日に渡る3回の会合の末、12月7日に人身対策行動計画が閣議決定された。また、自民党では塩崎やすひさ議員が委員長を務める「人身取引・児童売春等対策特別委員会」のもとに、新たに「人身取引対策プロジェクトチームを設置し、森山真弓元法相が座長、塩崎議員が事務局長となってとりまとめているようだが、果して、この度の省令改正は坂中局長の週刊朝日に掲載されているような意見に賛同しての結果なのだろうか。それとも、「政治家からの圧力」などとの脅しともとれる「官僚から圧力」に屈しての結果だったのか。いずれにしても、現行制度を細部に渡って検討した結果とは思えない。

結論から先に述べれば、何故に興行先での接客を一定限度認め、外国人芸能人が芸能技能を披露できるような大衆娯楽の場を提供出来るように行政側も業界側も相手国の代表を交えて真剣に検討出来ないのだろうか。現行の「興業」の招聘に関する諸規定では、健全な招聘事業の事業運営は困難であり、脱法行為が起き易い法制上の欠陥もみられる。更には当の芸能人の収入だけを聞いて搾取されているとの誤解を招く結果にもなっている。この件については、別紙で述べるとして、坂中局長の談話は、政治家や業界の軋轢で長年鬱積してきた恨み辛みを露呈した退職前の捨て台詞か、又は、彼個人のホステスを営む外国人芸能人は日本から一掃したいとの念願が、米国からの外圧の助けを借りて、省令改正という形で達成出来た勝鬨としか聞こえない。
そして、文末で人身売買の温床となっている「風俗店」を外国人芸能人の出演先から全て除外すべきだと主張しているが、今日まで入管局の指導に従って出演先としての設備を整え、「風俗営業許可」も取得し、フィリピン人エンタテナーを招いて「健全」に経営してきたショーパブなどの経営者に対しての生活権に対する配慮は全く感じられない。行政と業界と政界の馴合いで入国管理局という組織が犯して来た過ちを指摘しておきながら、その組織の重責を担っている者として謝罪も謙虚さもなく、自分の判断には一部の瑕疵もないとする傲慢さは尋常ではないと感じるのは私だけであろうか。その様な組織の長に導かれてきた入管行政であるとしたら、今後にも大きな不安を感じる。

週間朝日3月11日号の出典 http://pp-fantasia.com/trafficking/news06.jpg
朝日新聞2月28日 社会面 http://www.asahi.com/national/update/0228/017.html
人身取引対策に関する関係省庁連絡会議 http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/jinsin/konkyo.html
JANJAN投稿記事のバックナンバー;
「日本政府はフィリピン人看護婦・介護士の受入れで同意-2004/12/06」
「法務省 入管法の一部改正に着手-2004/12/08」
「パブリックコメントと情報公開の不思議-2004/12/16」
「人身取引批判で見せたブッシュ政権の外交姿勢とその限界-2005/01/13」「その(2)-2005/01/15」
# by jpaccess | 2005-03-10 09:57 | 時事ニュース

海外在住者からみた「NHK」問題、その事実と真実は・・・・・。

私はフィリピンに在住しています。スカイケーブルという有線放送でTVを見ているので、海外のチャンネルは多いのですが日本の番組はNHKの海外版と民放の番組を編成して配信している現地日系CTVの2チャンネルだけ、報道番組を見る時はローカル局の英語放送とCNN、それとNHKと決まっております。

NHKと朝日新聞との問題を最初に知ったのは、やはりNHKのTVニュースからでした。偶然、眺めていたニュース番組の最後に、アナウンサーが、詳細には記憶していませんが、「朝日新聞より批判を受けている件でNHKの番組編成には政治的な圧力を受けていないことが分かりました、・・・・・」とかいう内容だったと思います。

初めに、このニュースを知った時には、一体何の事だか分からずに、その後のNHKニュースを追ったり、Web上で邦字新聞の記事に目を通したり、JANJANの投稿などを読んで行くうちに、その番組改変(改編)とは、NHK教育テレビETV2001「戦争をどう裁く」の第2回「問われる戦時性暴力―女性国際戦犯法廷」という4年前の出来事を指していることが分かりました。

最初の内は、NHKが内部の不祥事で批判を受けている最中に、ここぞとばかりに朝日新聞が追い討ちを掛けている程度にしか考えていなかったのですが、日に日に各メディアでの取り扱いは熱気を帯びてくるし、当事者であるNHKと朝日新聞の論争のみならず圧力を掛けたと称される政治家の国会喚問、更には朝日新聞対産経新聞、読売新聞の論調対決、JANJANでは特別の投稿枠まで設けるようになって、私も否が応でも関心を払わざるをえなくなりました。

まず、一般の人達がTVや新聞等のマスメディアやマスコミ、ジャーナリズムには非常に関心を払っている様子と、それぞれの視点で大きく異なる主張がなされている状況を見て、日本での言論の自由に対する私の危惧は杞憂の事と思いましたが、ジャーナリズムとその担い手である所謂ジャーナリストに関しての私の杞憂は晴れません。
と言うのは、最近新聞で見かける記事のなかに、情報源の発言や公表をもとに、単に読者の関心を得るためなのか、法律や制度又は科学の基礎的知識があれば有り得ない内容が、記者の推測によるのか編集者の意図によるものかは知りませんが、掲載されているのを見かけます。TVでの記者会見の実況をみても、記者からの事実をえぐりだすような鋭い質問もなく主催者の一方的演説に終わるような場面を見ることが多いからです。
私は、各メディアから流れてくる情報には、取材者の意識、編集者の判断、それらが所属する組織の意図というものが影響するものであって、それは避けがたい現象としてある程度容認しています。それ故に大事なことは、情報の受け手である我々は、その情報に無批判に流されることなく「事実と真実」を確認する姿勢を持つことであろうと思います。そして、自分の価値観に照らして咀嚼していくべきだと確信しています。
一方、ジャーナリズムで最も大事なことは「事実は事実として伝えること」であって、記者、レポーター、キャメラマンなどのジャーナリストは、特に取材する再に「事実の伝達者」であるとの自覚をもち、対象に関しての知識の習得にも研鑚すべきであって、ジャーナリストを社会的に尊敬される職業と自任している記者諸兄には、その点を市民記者である我々以上に自覚して欲しいと思っています。JANJANに市民記者として投稿している私は、自分をジャーナリストとは思っていませんし、一般市民としての立場で投稿していますが、事実と自分の推測とは読む側に分かるように記述することを心がけているつもりです。

さて、この様な観点から「NHKと朝日新聞」の問題をとらえると、真実は相変わらず闇の中。
事実は4年前にNHKが製作依頼した作品を、放送間際でNHKの番組編成作業によって当初予定より3分短縮して放送した。 その件に対して製作会社がNHKの編集によって作品が同社の意図と異なる内容となったことで訴えている(一審判決は下りている)。又、この番組制作責任者であったNHKの長井暁プロデューサーが、NHKが昨年9月に設けた「コンプライアンス(法令順守)通報制度」をもとに、改変について内部告発した。告発の内容は、改変は海老沢勝二会長ら上層部も当時承知していたし、NHKは番組編成に際して政治家の圧力を受けているというものであった。
そして、その問題を朝日新聞が大きく扱い、NHK関係者や取材インタビューで得た談話などを記事にしてNHK批判を展開した。

そして、この問題の背景には、放送法、検閲、言論の自由、公共放送のあり方、従軍慰安婦問題、多様なイシューが横たわっているということで、JANJANも特別枠を設けて市民記者の投稿を取り上げています。このイシューの一つ一つに関して自説を述べるには紙面も知識も十分でないので、NHK民営化論にのみ絞って、市民の立場から投稿します。

現在、海外へ出かける日本人は年間1000万人を超え、海外在住の日本人は100万人を超えているのではないでしょうか。その中の一人である私にとってはNHKの存在は有難いものです。インターネットの発達で海外からでも日本で日々起きている出来事を知ることは容易になってきているものの、TVやラジオ程に比べればその域には達していません。
仮にNHKが民営化されたとして、現在と同様に海外向けのサービスを続けて行くことが出来るでしょうか。運営費用をスポンサーの広告費用に頼る民間TV局では、経営効率の点からも視聴率獲得の点からもNHK同様のサービスを継続することは困難だと思います。
NHKの受信料を払っていない海外在住者としては、NHKの運営に関して発言権はないのかもしれませんが、否、私はローカルのCTVに受信料を払っているし、そのローカルのCTVはNHKに対して配信料を払っているのだろうから間接的にはNHKに受信料を払っていることになる。すると、NHKの受信料を払わずに国内でNHKの番組を見ている人達と払っている人達の間の不公平さ同様、海外での受信者は一体幾らの受信料を払っているのかの点で不透明さが残る。

すると、NHK問題は公共放送として、受信料と運営の公平、公正、透明性を如何に担保するかと言う問題が一番大事なことなのかもしれない。「政治的中立性の確保」や「言論の自由」等も重要な事柄ではあるが、マスメディアが発達した今日、放送倫理に照らして公共放送局が逸脱した行動をとれば、すかさず批判勢力が其れを質す環境が育っている。「NHKの番組改変問題」が、その事実確認にと止まらず各メディアが夫々の視点で大きく取り扱っている事からもそれは証明されているのではないだろうか。
しかるに、憲法改正論議が浮上している今日、公共放送としてNHKを規定している法令や制度自体の根本的見直しは是非必要なことだと思う。会計監査制度や懲罰審査などを第三者機関に委託するなどして、経営の支配層からの影響を排する制度や、関連子会社の経営実態も含め、より開かれた組織体を形成する為にはどうしたら良いか、公共放送の積極的意義を土台に専門的な観点から検討して欲しい。
# by jpaccess | 2005-02-16 13:21 | 時事ニュース

「人身取引」批判で見せたブッシュ政権の外交姿勢

ニュース・評論
アメリカ国務省から「人身取引」の批判を受けて、日本政府は12月7日に「人身取引対策行動計画」として閣議決定した。その内容は内閣官房のホームページ記されている。 以下、抜粋・・・・。
(3) 「興行」の在留資格・査証の見直し  
 ○ 在留資格「興行」に係る上陸許可基準の見直し・上陸審査及び在留審査の厳格化
「在留資格(興行)で入国してきた者、特にフィリピン政府が発行する芸能人証明書の所持により上陸許可基準を満たすとして入国したフィリピン人に芸能人としての能力がなく人身取引の被害者となる者が多くいると認められることから、・・・・・・・の基準を削除し、芸能人としての能力の有無について実質的な審査を行えるようにするとともに、その他の基準についても抜本的な見直しを行う。また、招へい業者や出演店舗が人身取引に関与することがないように、上陸審査・在留審査の厳格化を図る」
以上の通り、他国を名指しで上げるのは、国内法令の改正に際して異例であると思うのだが、このことで日比両国の関係業界が蜂の巣をつついたような状態になっていることは前述した通りである。果たして、国会会期末に滑り込むようにして閣議決定するほど、「人身取引」は愁眉の社会問題であるのか。また、日本政府が計画している人身取引対策は国連やILOで指摘している「人身取引」の防止策として的を射ているのか。

そもそも、「人身取引」とは国連に於ける2000年12月のパルモア議定書の中で「搾取を目的として、脅迫や、暴力その他の強要、誘拐、不正行為、偽装、権力乱用、他人の弱い立場を悪用、他人を支配できる人物への金銭や便宜の授受などの手段を用いて、人を募集し、移送・移動したり、かくまったり、受け入れることとしている。搾取には少なくとも、売春における搾取やその他の形態の性的搾取、強制労働や強制奉仕、奴隷制度や奴隷制度・隷属と同様の行為、あるいは臓器の摘出が含まれる」と定義されている。
パルモア議定書と比較しても、日本政府の対策「芸能人としての能力の有無について実質的な審査を行えるようにするとともに、その他の基準についても抜本的な見直しを行う」としている行動計画の一項がどうしても理解できない。あえて、理解しようとすれば、「日本に(興行)のビザで入国するフィリピン人芸能人の多くは、芸能能力が無いが故に人身取引(強制労働や売春)の被害者となっている」と成ってしまう。では、何故その様な被害者たちが数度の渡航を繰り返し、その数が年間8万人にも達しているのかに疑問が残る。被害者がいるという事は加害者がいるはずだが、その点への言及が無い。被害者に被害者意識が無いのと加害者の存在が見えないとなると、日比両国政府が売買春や強制労働に関して寛容であり是認しているか、両国民にその点での倫理観または社会良識が欠如しているしとしか理解できない文章である。

さて、日本政府の「人身取引」に対する対応だが、国連または国際機関から批判されたとしても、この様な早急な対応を図っただろうか。
6月17日に公表されたアメリカ国務省人身売買監視対策室の「2004年人身売買報告書」には「芸術、芸能ビザの悪用:多くの国で、芸術・芸能ビザが、人身売買被害者の移動と搾取を目的に取得されている。・・・・・・出身国と目的国の法律の下に認可された職業斡旋機関が、女性に対する詐欺行為と募集に主要な役割を果たすことが多い」
「例えば、日本が、2003年に5万5000件の芸能ビザをフィリピンの女性に発給したことが報告されている。これらの女性の多くが人身売買の犠牲になっていると思われる。関係当局は、この種のビザの発給要件を精査し、・・・・・・特別な審査手続きを実施すべきである。出国側では、女性を労働搾取や強制売春に誘い込むために人身売買業者が用いる策略に関して、芸能ビザ申請者に注意を呼びかけることを目的とした啓蒙活動を行う必要がある」更につけ加えて・・・・・・
「人身売買排除に向けた最低基準を満たすための重要な行動をとることを怠った国に対しては、否定的な評価が与えられる。このような評価を受けた国に対して、米国からの人道的支援以外の支援や非貿易関連の支援差し止めが誘発されることもあり得る」

何と独善的な且つ恫喝的な表現だろう。国連での承認を得ずにイラク戦争を始めた時のブッシュ大統領とネオコンの発言にそっくりである。更に日本政府の人身取引対策行動計画の記述が国務省の報告書の丸写しと言えるほど酷似してい点からも、明らかにブッシュ政権の外交上の恣意を読み取る事が出来る。
ブッシュ政権にとってはイラク戦争を米傀儡政権の樹立をもって終結していかない限り、中東に於けるアメリカのプレゼンスの低下のみならずブッシュ政権の政治基盤すら危うくなる。双子の赤字を抱えるアメリカにとってイラク戦争の長期化は軍事的にも財政的にも米国を疲弊させる。同盟国に軍事力ないし資金力の一部を是が非でも負担してもらわなければならない。しかし、世界の動静はブッシュ大統領が望み、同盟国に呼びかけてもそれに応じるほど単純ではない。
世界の動静を鳥瞰図を描いて眺めて見ると、国連を無視してまで一国専横を通してきたブッシュ政権による外交の限界と日本のアメリカ追随政策の危険性が見えてくる。

欧州に置いては、イラク問題を契機にEU加盟国間の立場の違い、米欧間の亀裂の存在が指摘されるようになった。冷戦期にはNATO体制の下に対ソ連で結束していた米欧加盟国もソ連崩壊と共にアメリカの欧州における軍事上のプレゼンスの低下、当初アメリカ、カナダと西欧10カ国で発足したNATOが東欧からの相次ぐ加盟で26カ国となるに従い各国間の利害の対立を内に抱えこむ事となった。アメリカ、イギリスのNATO軍の多国籍軍への参加要請に対しても、イラク政府軍及び治安組織の訓練をトルコで行うに止めた例からもそれが窺える。更に、ユーロによる通貨統合と経済統合、集団的安全保障体制の面でもアメリカとは一線を画したEU独自の動きがある。中東における石油資源、アフリカにおける権益に対しての取り組みも明らかにアメリカと異なるのは明白であるが、アメリカ、欧州を背後で操るユダヤ資本の動静がアメリカの対欧州外交の要と成っているように思う。ウクライナの大統領選挙でみせた世界最大の投機ファンドの総帥であり慈善家であるソロスの介入もその左証であろう。アメリカ及び西欧諸国がパレスチナ問題に強くコミット出来ないことも同様のように感じる。

ロシアは、ソ連崩壊(1991年12月)からの長い経済低迷から脱しつつ、「強いロシア」を標榜するプーチン大統領の磐石な政権基盤の下、EU拡大に伴う一定の懸案事項につき双方の合意を確認する共同声明を発表。5月末の露EU首脳会合では、ロシアのWTO加盟に関わる諸問題につき合意達成、議定書調印。また、ロシア政府は9月に京都議定書の批准法案を承認。国内にはチェチェン問題や新興財閥と政治腐敗などの問題を抱えながらも、この数年は経済面でも着実な回復を遂げている。中国とは、2001年7月に「中露善隣友好協力条約」を締結。04年10月のプーチン大統領の訪中では、領土問題の最終的解決、ロシアのWTO加盟に関する二国間交渉で成果をあげ、北朝鮮とは、金正日総書記と毎年会談を持つなど朝鮮半島情勢への関与を強める姿勢を示している。アメリカが国連をも無視した一国単独行動を取るのとは対照的に、国連を舞台とする国際協調とプーチン大統領の強力な指導力を背景とする首脳外交により中央アジアに於ける覇権の再構築を図っている。

中国は、12億の人口を擁する巨大国家として21世紀に入り世界経済及び政治の舞台に躍り出てきた。胡錦濤国家主席兼党総書記の下で、思想、私有財産制、人権の尊重を保障する憲法改正を行い、開放政策の下で驚異的な経済発展を遂げつつ、WTOにも加盟、先進工業国からは消費市場と共に生産基地として熱い視線が注がれている。日本の経済回復は小泉首相の構造改革より中国バブルによると言われる所以でもある。しかし、国内での都市と地方との経済格差、政治腐敗、インフレへの懸念など多くの不安定要素も抱えている。WTO加盟で欧米主導による国際的経済の枠組みのなかで一層の発展を遂げようとする中国だが、中国元の為替の再評価次第では国内経済はもとより国際通貨市場での火種を内包している。外交面では、台湾の独立を否定、アメリカ及び日本を牽制しながら経済発展の確保の為に全方位外交を展開、近隣諸国及び大国との良好な関係構築のみならず新興国・途上国との対話、ASEAN、APEC等の国際的な枠組みへの積極的な取り組みも見られる。

さて日本だが、バブル経済崩壊後、空白の90年代から21世紀に入りやっと長いトンネルの出口に差掛かったものの、出口の向こうに見える海外の状況は、中国の台頭と台湾めぐる軋轢、ロシアとは未解決の北方領土問題とシベリア開発、更に北朝鮮とは国交正常化交渉と拉致問題、その上、世界を分断分裂へ導きかねない第二次大戦後では最大の危険を宿すイラク戦争の去就。どれ一つ取っても日本単独の力では解決は望めない難題がひかえている。今日までの戦後日本の経済発展は米国の傘の下で達成されてきたことは事実であるが、経済、社会構造の変革を根底から迫る人口高齢化と減少と云う不可避の状況を目前に、国内では改革を提唱する小泉首相も外交の面では従来の保守政権がとってきた政策を踏襲、アメリカ追随外交に終始するのみである。ブッシュ大統領は小泉総理との個人的友好関係を最大限に利用して自身の窮地を回復する為に日本の憲法改変までも目論んでいるのではないだろうか。北朝鮮を悪の枢軸国にあげ6者協議では日本を支持しているものの、北朝鮮での緊張は日本をアメリカにつなぎ止めて置くのに都合が良い。ロシアも中国も同様に北朝鮮問題を外交上の駆け引きに利用するだろうから、日朝の国交正常化はイラク国民による政権の樹立と治安回復が達成されるまでは望めないのではないか。

フィリピンは、我々日本人の手で作成した鳥瞰図の中には描かれていない。 日比の貿易取引額は日本の輸出総額の3%に満たない事、海外在留邦人の数でも17位と低いからだろう。では、この時期に何故アメリカ国務省は日比両国を名指しで「人身取引」で非難したのだろうか。
アメリカにとってフィリピンは歴史上の経緯から特異な存在である。世界大戦中はマッカーサーの「 I shall return 」の名言の通り日米決戦の場となった。戦後は一貫して共産勢力に対する防波堤としてアメリカの極東及び東南アジアの要衝となった。特にベトナム戦争においてはマルコス独裁政権を支え、フィリピンに太平洋最大の軍事基地を置き多数のアメリカ軍人が駐留した。現在のフィリピンの経済的疲弊と政治腐敗、貧富の拡大と貧困問題の多くはマルコスの長期政権の下で醸成されたといって過言ではない。現在800万人を上回ると言われるフィリピン人海外労働者の派遣制度が出来たのもマルコス政権2期目の失業問題による国内不安の解消のためである。アメリカにとっては50年に渡る統治下での英語教育の普及、アメリカ型政治、法治機構の整備などで終戦から今日までアジアにとっては日本と共に最も組し易い国家であったし、フィリピン国民のアメリカ崇拝は他のアジア国の比ではない。
しかし、ブッシュ政権のイラク戦争とテロ対策でとった施策は①情報のコントロール、②テロに関わる資金の移動と資産凍結、③テロリストの国際的ネットワークと移動の捜査・撲滅、等があげられるが、このフィルターを通してフィリピンを捉えてみると、従順な親米国家としての旧来象とは異なる姿がみえてきた。
先ず、国内の経済、政治の分野は中国系フィリピン人で占められ、中国との交流も系譜をもとに拡大しつつある。中国とは南沙諸島(スプラトリー)でベトナム、インドネシアと共に未決の領有権問題を抱えているが、香港には2万人近いメードを送っており、緊張関係と云うより人の交流の面でも接近しつつあるといえる。
テロの分野ではアルカイダと連帯するアブ・サヤフ(イスラム系反政府武装集団)、比共産党(CPP)と新人民軍(NPA)の存在が治安の不安要素と成っている。アメリカ政府は外国テロ組織リストにアブ・サヤフ、CPP、NPAを追加、2002年にはオランダ亡命中のCPP創設者のホセ・M・シソンを「資産凍結対象リスト」に加えた。
ブッシュ大統領からすれば、イスラムのアジアに於ける拡大をフィリピンで是が非でも食い止めたいところだが、再選を果したアロヨ大統領はテロ対策に対してはアメリカと共同歩調と取りながらも、ミンダナオに於けるイスラム問題の解決の観点からイスラム諸国との関係強化を打ち出している。更に、GNPの7%以上に相当する海外労働者からの本国への送金が貴重な外貨獲得源となっているフィリピンにとっては、海外労働者の人権・利益保護は重要な外交政策の柱となっている。イラクでフィリピン人トラック運転手がテロ集団に拉致された際に、自国の派遣部隊を引き上げたアロヨ大統領の判断の背景には、未だ20万人にのぼる外労働者を中東に派遣している事情が大きく影響している。
アロヨ大統領はクリントン大統領と学窓を共にした仲で同大統領時の米比関係は極めて良好であったが、ブッシュ大統領とはあまり馬が会わないのだろうか。亦、ブッシュ大統領には、テロ対策における「資金の移動、テロリストの移動」の網の目にかかるフィリピン人海外労働者の移動・送金ルートの存在は目障りな存在となっているのかもしれない。
何れにせよ、ブッシュ大統領にとっては、イラクの暫定政権から選挙によるイラク政府の樹立までは、一国の支持も失うことは容認できない。といって、フィリピン政府へ直接的に圧力を加えればイスラム系の多いアジア各国からの反発を招く恐れもあると判断したのだろう。ODAの半分以上、海外労働者の本国送金の30%近い額を提供している日本を利用してフィリピンに対して箍を締め直す策にでた。それが、国務省による「人身売買」批判ではないだろうか。改めて記述するが、「米国からの人道的支援以外の支援や非貿易関連の支援差し止めが誘発されることもあり得る」との文面からもその意図が窺える。

イラク戦争で見せたブッシュ政権の戦略は、「情報のコントロール」の面ではアルジャジーラやBBC、更にはNGO等のWEBサイトによる独自報道の台頭で自らの恣意的報道の限界を示した。「テロ資金の捕捉と凍結」は国際的投機基金が世界を自由に駆けめぐる時代に資金を色分けして捕捉することも甚だ困難となっている。「人の移動」に関しては、監視はできても法的裏付けがない限り制限する事は出来ない。これをアメリカの国家権力を背景に強行に押し進めようとすれば、国際社会からの反発を招くだけである。
9.11に端を発したイラク戦争で露出したイスラム原理主義とキリスト教原理主義の対立が、今やアラブ・イスラム社会と欧米社会のみならず世界を巻き込んだ対立・分裂へと拡大する危険性をはらんでいる。パレスチナ問題、ウクライナ政局の動向、北朝鮮問題、イランの核保有問題、等々数えれば限がないが、それらの国際紛争の全てが相互にリンクして各国の外交面に反映される。それが国家間の枠組みの中で処理されている間は抑止力も働くが、国際的テロ組織、巨大な国際的投機資金、更には国際的犯罪集団の国家の枠を超えた暗躍などが分裂に油を注ぎ、混乱を一層混沌としたものにする。
一体この対立・分裂を融合へ導く策は無いものだろうか、2005年も引きつづきイラク動向を中心に国際政治は展開していくことだろう。
# by jpaccess | 2005-01-18 12:51 | 時事ニュース

スマトラ沖地震に見る、人、物、金、情報の移動

ニュース・評論
年末の締め括りとして、一稿を加えようと「人身取引」問題に関して加筆していた時に、付けっ放しにしていたTVのCNNチャンネルからスマトラ沖地震のニュースが入ってきた。初めのうちは、04年は自然災害の多い年だったなと思いながらキーボーを打ち続けていたのだが、続報に津波の報道が入ってくるや、その災害の規模の大きさだけでなくインド洋沿岸全域に渡って被害が拡大しているのに驚かされた。
BLOGへの投稿はいったん中断、それからの数時間、いや数日は地震、津波のニュースに釘付けと成ってしまった。各被災地へのアクセスが困難を極め、被災の状況も各ニュース・ソースによって異なっていたが、年を明けて、各国の支援の輪が広がるにしたがって、その被災の実態も明らかになり、死亡・行方不明者を加えると沿岸13国で15万人を超え、被災者は500万人を下らないという。励ましの言葉すら容易には見当たらないほどの未曽有の災害である。真にお気の毒としか言いようがない。

この災害の報道のなかで私の目を引き付けたものがある。日本の報道では先ず日本人の安否の確認であるが、現在までに確認された死亡者の数は23人、外務省に安否の問い合わせのあった3,315人のうち安否未確認は247人(1月6日(夜)外務省発表)となっている。各国ともに自国民の安否に関しての報道を取り扱っているが、そのなかでスウェーデンは12月末に自国民の被災者の数が1000人を超える可能性があると報道していた。そして現在では安否未確認の数は1500人を超えている。被災地から日本より遠く、日本の人口の1割弱(約900万人)のスウェーデンの安否未確認の数が日本より遥かに多い。人口を基に比例計算すると約2万人の日本人が安否未確認となっているのと同じである。何と大きな数だろう。被災地から届く映像にも西欧人と思しき多くの白人の姿が映っている。被災地のタイ、プーケットは日本でも人気の観光とでもある。世界各国からの旅行者もさぞ多かったのだろう。
冬季のスウェーデンでは日照時間が7~8時間と極めて少ない、南洋の輝く太陽は北欧の人達の憧れに違いない。自然条件が人の国際移動に大きく影響していることを改めて知らされた。否、もとはと言えば、人類は有史前より生存に適する自然条件をもとめて移動してきたのだ。それが文明、文化の発展によって自然条件を克服し定住するようになり、近代国家の成立に繋がった。私の視点「人、物、金、情報の移動、そして分裂と融合」から自然という要素が欠けていただけなのだ.
今年も、BLOGのタイトルを「人、物、金、情報の移動、そして分裂と融合」にすることに決めた。“自然”も視点に加えて・・・・・・。
人類の歴史は、人の移動から始まった、生命の維持と子孫の存続の為に。それが、他の氏族や共同体の“物”を収奪するに及んで争いが生じ、戦へと発展し“分裂”を生んだ。一方、平和な手段で互いが必要とする“物”を交換、交易することが共同体や民族の“融合”を促進した。そして交易を円滑にする手段として“金”が生れた。“物”の移動に伴って“金”が移動し、より豊な“物”を求めての民族の大移動とともに侵略、征服、分裂、融合を繰り返し、現代民族国家の現出へと導いた。 しかし、国家という個人を超越した権力が生れると人、物、金の移動は統制を受ける事と成ったが、“情報”は統制の隙間をぬって人々の間を行き交う。誤った情報に触発されて起きた史上最大の“分裂”が第2次世界大戦であろう。大戦後に人類最大の分裂を教訓にして“融合”へと導こうとして生れたのが国連であったはずだ。しかしそれも、分裂の危機を内に抱えている。
人類の歴史は、“物と金”を廻っての離合集散、分裂と融合の歴史といっても過言でないかもしれない。急速に発達した情報伝達技術が一般化した今日、従来の人→物→金→情報の流れの順序が情報→金→物→人と時空間を移動するスピードの順に変わってしまった。情報を征するものが富を握ると云われるよう、大戦後まもなく世界に広がる家系のネットワークを利用して巨額の富を構築したロスチャイルド家に代表されるユダヤ資本、近年では、アジア通貨危機の元凶といわれる国際的投機資金の存在が例にあげられる。パーソナルコンピューターとインターネットの普及によって多くの人達が家に居ながらリアルタイムで情報を発信、受信できる時代となったが、その情報の扱いを間違えると第二次大戦以上の分裂を生む危険性も含んでいる。

さて、スマトラ沖地震と津波での「人、物、金、情報」だが、やはり、いち早く被災の情報が世界に伝えられ、そして各国から市民レベルの義捐金や政府レベルでの復興支援金の提供が相次ぎ、救援物資も現地に続々と到着しつつある。また、人の面でも被災者の治療や2次災害対策の為の医療班はじめ被災者捜索および復旧に向けた各国の救援隊も加わり、国際的な支援の輪が広がりつつある。人間社会に甚大な破壊をもたらした自然災害だが、支援にあつまる人、物、金、情報が被災国にあった分裂の危機を“融合”に向かわせる大きな力と成っている事に災いの中での光明を見た思いがした。
しかし、一方で、スウェーデン政府が安否未確認者に関する情報の公開を、留守宅を荒らす犯罪の誘発を招く事を案じて躊躇っている。ユネスは被災孤児が「人身取引」の対象に成らぬように警告を発している。更に、アメリカのパウエル国務長官が国際的救援の管理・指揮を円滑に進めるため、アメリカ、日本、オーストラリア、インドによる救援・復興コア・センターの設置を提唱したが、特定国の主導を嫌う国々などの反対で最終的には国連の主導の下で行うことに成った。このように“融合”の流れを乱すような人の動きもあり、災害に拘わる情報に対して監視の眼を緩める事は出来ない。
怒りを向ける対象のない自然災害のような場合、人は“融合”へと向かうが、人災の最たる戦争のように怒りの対象が人間の場合には“分裂”が分裂の連鎖を生み、人間同士の憎悪を増幅させる。人、物、金、情報の移動が文化・宗教・価値観の融合をもたらし平和な世界へと向かうことを願うばかりである。
# by jpaccess | 2005-01-10 11:42 | 時事ニュース